テレワークでも残業代は発生するの?
残業代が発生する条件を弁護士が解説
0 はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、感染リスクの回避や事業継続の観点から、「テレワーク」の導入・実施が急速に拡大し、注目されるようになりました。今後も、新たな働き方として、テレワークを活用する企業は増えていくと考えられます。
もっとも、テレワークになると、これまでの働き方と比べて、企業は労働者の勤務状況を把握しづらくなります。
そうすると、そもそも、テレワークで残業をした場合に、「残業代は支払われるのか?」という疑問が生じてくると思います。
そこで、ここでは、テレワークで残業をした場合に、残業代が発生する条件について解説します。
Ⅰ 「テレワーク」とは?
テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語であり、情報通信技術を活用し、オフィス以外の場所で働く形態のことをいいます。
テレワークと呼ばれるものには主に以下のものがあります。
‣ 自宅での「在宅勤務」
‣ 新幹線や電車での移動中や顧客先、カフェなどで働く「モバイル勤務」
‣ 本来の勤務先とは別のテレワーク用に整備されたオフィスなどで勤務する「サテライトオフィス勤務」
労働者にとってのメリット
‣ 通勤の負担が軽減する
‣ 通勤時間が削減される
‣ 時間の余裕が生まれることによって家庭生活と仕事の両立が図れる など
企業にとってのメリット
‣ 家庭責任との関係で在宅勤務せざるを得ない労働者の離職を防止できる
‣ 生産性が向上する など
他方で、テレワークでは、企業側の労務管理が行き届かないことも多く、労働者にとっては、私生活との境界が曖昧となり長時間労働となりやすいという側面があります。
Ⅱ テレワークでも残業代は発生する ~誤解が多いところです~
それでは、テレワークで残業をした場合に、残業代を請求することはできるのでしょうか?
「テレワークでは残業代は発生しない。」このような認識を持っている企業・使用者は少なくありません。
しかし、テレワークであっても、通常の働き方と同様、労働基準法の労働時間規制が適用されます。ですので、1日8時間・1週40時間を超えて残業した場合、法律に従って残業代を請求することは可能です。「テレワークだから残業代は支払わなくてよい」というルールはないのです。どこで働こうが働いた分の残業代は発生することになります。
ただし、以下で述べるように、残業代の請求が認められないケースもありますので、注意が必要です。
Ⅲ 残業代が支払われないケースとその対処法
残業代が支払われないケースとして、会社から以下のような主張がされることがあります。
‣ 勝手に残業している
‣ 遊んでいて仕事をしていない
‣ 事業場外みなし制が採用されている
‣ 裁量労働制が適用されている
‣ フレックスタイム制が採用されている
ⅰ 勝手に残業しているだけ?
会社の許可をもらいテレワークしましょう
残業代が支払われないケースとして、テレワークの労働者に対して、会社は
「残業の指示をしていない」
「会社の許可を得ずに労働者が勝手にやっていただけだ」
という主張を展開することがよくあります。
たとえ会社から明確な残業指示や許可が出ていなかったとしても、業務上の必要性や会社側の関与があれば、残業代を請求することは可能です。通常のオフィス勤務の場合は、オフィスに残って仕事をしていれば、会社側が残業の事実やその内容を把握できることが多いですので、残業代の請求は比較的認められやすいといえます。
他方、テレワークの場合には、会社の目が行き届きにくい反面、会社の指示や許可がないことを理由に、残業代の請求が認められないケースがあります。
したがって、テレワークで残業をする場合には、事前に会社の許可を取っておくことが望ましいでしょう。
許可が得られない場合、再現できるようにしましょう
事前に許可を取ることが難しい場合であっても、残業代の請求が認められないわけではありません。
ただし、
「業務上の必要に迫られて残業をしていた」
「会社が事実上残業を認めていた」
といった事情をできる限り具体的に再現できるようにしておくことが重要です。
有効な具体例
‣ 会社から仕事の締切を具体的に指示されている
‣ 仕事をした内容や成果を細かく記録に残して会社に報告している
‣ 上司に対して業務に関するメールやチャットをこまめに送信している
などの資料(証拠)があると、残業の必要性や会社側の関与があるとされて、残業代の請求は認められやすくなるといえます。
どういった資料が証拠となるのかなど具体的な方策は、弁護士に相談することをお勧めします。
ⅱ 遊んでいただけ、仕事はしていない?
この主張も、会社が残業代を支払わない理由として度々登場します。
テレワーク、特に在宅勤務の場合には、プライベートとの境界が曖昧になりますので、「パソコンは確かに起動しているが、家で休んでいただけではないか」などと主張されるケースが多いです。
このような会社の主張に対しては、以下のような対策が有効です。
‣ 仕事をした内容や成果を細かく記録に残して会社に報告する
‣ 業務に関するメールやチャットの送信履歴を記録しておく
‣ ファイル更新履歴等のデータ(情報)を残しておく
業務時間外に上司から連絡が来て、すぐに指示に従わなければならないといった事情があれば、その上司からのメールや電話の履歴の証拠を残しておくことも有効でしょう。
ⅲ 事業場外労働みなし制が採用されているから残業代は発生しない?
テレワークを導入している会社では、「事業場外労働みなし制」が採用されていることを理由に、残業代が支払われないケースがあります。
外回りの営業職など、事業場外で勤務し、会社が労働時間を細かく把握できない場合に、実際に何時間働いたかとは関係なく、あらかじめ決められた時間だけ働いたものとみなす制度のことをいいます。
この制度が適用されると、例えば、就業規則でみなし時間を8時間としていれば、10時間働いた日であっても、8時間働いたものと「みなされる」ことになりますので、残業代を請求することは基本的にできません(ただし、みなし時間が法定労働時間を超える場合や、休日・深夜に働いた場合には、割増賃金の請求が可能です)。
もっとも、この制度は、会社が「労働時間を算定し難いとき」に当たることが適用の要件とされています。そして、「労働時間を算定し難いとき」の要件はかなり厳格に考えられています。
特に、テレワークでは、そもそも情報通信技術を利用しながら仕事をしますので、会社が労働者の勤務状況を把握することは比較的容易であるといえます。
したがって、テレワークの場合に、「事業場外労働みなし制」を適用可能なケースは、かなり限定されると考えられます。
厚生労働省が出しているガイドラインにおいても、少なくとも、情報通信機器(PC、スマホなど)による会社の指示に直ちに応じる義務がある場合や、随時会社の具体的な指示に基づいて業務を行っている場合には、事業場外労働みなし制は適用されないとされています。
したがって、事業場外労働みなし制が採用されていることを理由に会社から残業代が支払われなかったとしても、必ずしも諦める必要はありません。自身の所属する会社が事業場外みなし労働制を採用している場合、一度、弁護士に相談することをお勧めします。
ⅳ 裁量労働制が採用されているから残業代は発生しない?
テレワークを導入している会社では、「裁量労働制」が採用されていることを理由に、残業代が支払われないケースもあります。
裁量性の高い労働に従事している者について、労働者が実際に何時間働いたかとは関係なく、あらかじめ決められた時間だけ働いたものとみなす制度です。
メリット
出退勤や始業・終業時間を労働者の裁量で決められます。
デメリット
残業代を請求することは基本的にできません(ただし、みなし時間が法定労働時間を超える場合や、休日・深夜に働いた場合には、割増賃金の請求が可能です)。
もっとも、裁量労働制は、対象業務や導入の要件、手続が法律で厳格に定められており、制度を適用できるのは、研究職やマスコミなど一部の職種に限られています。
そもそも、テレワークで働いているからといって、必ずしも労働時間や業務の遂行方法に裁量があるわけではなく、テレワークであることを理由に裁量労働制を適用することはできません。
したがって、裁量労働制が採用されていることを理由に会社から残業代が支払われなかったとしても、やはり諦める必要はないといえるでしょう。会社の規定や制度を検証することが重要です。
ⅴ フレックスタイム制が採用されているから残業代は発生しない?
テレワークでは、新型コロナウィルスの問題とは関係なく、働く時間を労働者がある程度自分で決められるようにしたいというニーズが労使双方にあることから、フレックスタイム制を導入している会社も多くあります。
1日の労働時間の長さを固定せずに、一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲で各日の労働時間を自分で決めるという制度です(ただし、必ず働かなければならない時間帯(コアタイム)を設定することは可能です)。
メリット
出退勤の時間を労働者がある程度決められます。
デメリット
1日の労働時間が長くなったとしても、残業代は基本的に発生しません。
ただし、一定の期間の労働時間の総枠を超えて働いた場合には、超過部分の残業代を請求することが可能です。
したがって、自分が実際にどれくらいの時間働いているのかをきちんと把握し、超過分の残業代が支払われているかどうか、確認しておくべきです。
Ⅳ テレワークに疑問を感じたら弁護士に相談してみましょう
以上、コロナ禍において注目度が増し正式に導入する企業が増えているテレワークについて解説してきました。
テレワークでは、ここで述べた残業代の問題以外にも、
‣ テレワークに必要な費用(例:ネット環境にあるPCの電気代、通信料など)を誰が負担するか?(会社か、労働者か)
‣ 労働者や家族のプライバシー保護は図られているか?
‣ 会社が一方的にテレワークを命じることはできるのか?
‣ 労働者からテレワーク勤務を希望している場合、会社に求めることはできるのか?
‣ ストレスの蓄積や長時間労働のリスクへの配慮がなされているか?
など様々なことが問題になり得ます。
テレワーク勤務をする上で疑問を感じたり、会社とトラブルに発展しそうになったりした場合には、是非一度、労働問題を多く取り扱っている弁護士にご相談ください。
当事務所では、労働問題を重点的に取り扱っている弁護士がおります。ご依頼を通じてこれまで培ってきたノウハウを駆使して、皆様のサポートをさせていただきたいと思います。
以下もご覧ください。
・未払い残業代請求
https://www.koshigaya-roudou.com/zangyo
・会社とのトラブルを解決する手段としては、どのようなものがありますか。
https://www.koshigaya-roudou.com/post-153/