夫が脳梗塞を発症して亡くなりました。連日の長時間労働による過労死だと思いますが、労災は認められるのでしょうか。

 心筋梗塞などの「心疾患」や、脳梗塞などの「脳血管疾患」は、加齢、食生活、生活環境などの日常生活による諸要因や遺伝により形成された血管病変等が、徐々に進行・増悪することによって発症するものです。
 しかし、仕事が特に荷重であったために、血管病変等が著しく増悪した結果、脳・心臓疾患を発症することがあります。
 このような場合には、仕事が病気を発症する原因になったものとして、労災の対象となります(特に、脳・心臓疾患により死に至った場合を「過労死」と呼びます)。

労災(過労死)の認定基準

 では、どのような場合に労災が認められるのでしょうか?
 厚生労働省は、脳・心臓疾患の労災認定基準を定め、対象となる疾病(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離)の発症が、労災と認められるための基準を示しています。
 この認定基準によれば、次の(1)から(3)のいずれかの要件を満たすことが必要とされています。

(1)異常な出来事

 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的および場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したことをいいます。
 例えば、業務に関連した重大事故に関与するなど、突発的に極度の精神的・身体的負荷がかかったような場合がこれに当たります。

(2)短期間の過重業務

 発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において特に過重な業務に就労したことをいいます。
 例えば、発症前日~1週間前に特に過度の長時間労働や連続勤務が認められるような場合がこれに当たります。

(3)長期間の過重業務

 発症前の長期(発症前おおむね6か月)にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことをいいます。
 過労死として主に問題となるのがこの場合で、「特に過重な業務」に当たるか否かは、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張を伴う業務か否か等を考慮して判断されるものとされています。

 労働時間についていえば、発症前1か月間に100時間、または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働)が認められるケースでは、発症との関連性が強いと判断されています。いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる基準です。
 月100時間の時間外労働、あるいは月80時間の時間外労働と言われてもイメージが付かない方もいらっしゃるかもしれませんので、一つ具体例を挙げます。
 例えば、月曜日から金曜日まで週5日、1日8時間働き、毎日3時間残業(8時間+3時間)、土曜日にも月2回勤務(8時間×2)した場合、時間外労働はどれくらいになるでしょうか。
 上の例で計算すると、1月でおおよそ80時間くらいになります。すなわち、上のような働き方を2ヶ月以上続けた場合、過労死として認定される基準をおおよそ満たすことになるのです。それだけ、過労死のリスクがある働き方である、ということを意味します。
 

認定基準は裁判所を拘束するか

 脳・心臓疾患の労災認定基準は以上の通りです。労働基準監督署などの行政機関は、基本的にはこの基準に沿って、労災かどうかの判断を下します。
 ただし、このような認定基準は、裁判所を拘束するものではありません
 裁判所は、行政の基準に拘束されることなく、労災を認めるべきか(業務による負荷が、基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させ、脳・心臓疾患を発症させたと認められるか)を、個別の事案に応じて柔軟に判断します。 

 したがって、時間外労働の時間数が不足しているなど、労災認定基準には当てはまらないケースや、労災申請をした結果不支給の決定が出てしまったケースでも、裁判所が行政機関の判断を覆し、労働者が救済されることがあり得ます。

 このように、認定基準では労災として認められない場合でも、必ずしも諦める必要はありません。まずは労働問題に精通した弁護士にご相談ください。

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