過労死認定基準の改正について

1 約20年ぶりの脳・心臓疾患の労災認定基準改正

 厚生労働省は、過労死等に関係する脳・心臓疾患の労災認定基準を改正し、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」として、令和3年9月14日付で公表しました。

これは、最新の医学的知見や労災認定例・裁判例を分析した専門検討会での検討結果を経て策定されたものであり、平成13年12月に認定基準が改正されて以来、約20年ぶりの見直しとなりました。今後は、この基準に基づいて労災補償が行われることになります。

 そこで、今回の改正のポイントについて、簡単に解説いたします。

○そもそも労災認定基準とは?・・・下記の記事をご覧ください。

https://www.koshigaya-roudou.com/post-689/

2 「労働時間」と「労働時間以外の負荷要因」を総合評価することの明確化

 今回の改正の最大のポイントは、時間外労働が「過労死ライン」に到達していなくても、「労働時間以外の負荷要因」が認められる場合には、総合的に考慮して、過労死等と認定されることがあることを明確化した点です。

 

 新しい認定基準も、脳・心臓疾患の労災認定に当たっての「基本的な考え方」や、認定要件の枠組み(「長期間の過重業務」「短期間の過重業務」「異常な出来事」)には、従前から実質的な変更はありません。

 また、「長期間の過重業務」による労災認定において、「労働時間」のみで業務と発症との関連性が強い(労災)と認められる時間外労働の水準についても、これまでの認定基準の考え方(発症前1か月間に100時間超または2〜6か月間平均で月80時間超、いわゆる「過労死ライン」)が維持されています。

ただし、新認定基準では、「労働時間以外の負荷要因」において「一定の負荷」が認められる場合には、労働時間の状況をも総合的に考慮し、業務と発症との関連性が強いといえるかどうかを適切に判断すること、「過労死ライン」の水準には至らないが「これに近い時間外労働」が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、「そのような時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断すること」が、明記されました。なお、「これに近い時間外労働」については、おおむね月65時間を超える時間外労働が想定されています。

このように、「労働時間以外の負荷要因」を考慮して判断することが明確化されたことにより、「過労死ライン」を下回る時間外労働しか認められないケースでも、労災認定される可能性が広がったといえます。

 

3 「労働時間以外の負荷要因」の見直し

 また、「労働時間以外の負荷要因」については、次のように項目が整理された上で、「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「身体的負荷を伴う業務」が新たな負荷要因として追加されました。各負荷要因の検討の視点も具体化され、より活用しやすいものになったといえます。

①勤務時間の不規則性

 ・拘束時間の長い勤務

 ・休日のない連続勤務

 ・勤務間インターバルが短い勤務

 ・不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務

②事業場外における移動を伴う業務

 ・出張の多い業務

 ・その他事業場外における移動を伴う業務

③心理的負荷を伴う業務

④身体的負荷を伴う業務

⑤作業環境

 ・温度環境

 ・騒音

 

 特に、「勤務間インターバルが短い勤務」について、長期間の過重業務の判断に当たっての検討の視点として、「勤務間インターバルがおおむね11時間未満」の勤務の有無という具体的な数字が示された点は、大いに活用することができるでしょう。

 また、これまで、脳・心臓疾患では比較的軽視されていた「心理的負荷を伴う業務」が幅広く評価の対象となったことも、重要な改正点です。

 

4 「短期間の過重業務」「異常な出来事」の明確化

 「短期間の過重業務」「異常な出来事」については、検討の視点が明確化され、具体的な認定例が示されました。

 また、原則として発症前1週間の業務の過重性を評価する「短期間の過重業務」について、「発症前おおむね1週間より前の業務については、原則として長期間の負荷として評価するが、発症前1か月間より短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低いために、長期間の過重業務とは認められないような場合には、発症前1週間を含めた当該期間に就労した業務の過重性を評価し、それが特に過重な業務と認められるときは、短期間の過重業務に就労したものと判断する」と明記されました。

 これによって、発症前1か月間より短い期間(例えば2週間〜3週間)のみに過重な業務が集中し、「長期間の過重業務」とは認められないような事案について、「短期間の過重業務」として労災認定される余地が広がったといえます。

 

5 おわりに

 新しい労災認定基準によれば時間外労働数が月80時間~100時間の「過労死ライン」に満たない場合でも、月65時間程度の時間外労働が認められ、他の業務上の負荷要因があれば、十分に労災認定される可能性があります。

 このように、今後は、これまで労災申請を諦めざるを得なかったケースでも、新しい労災認定基準を活用して、労災認定の獲得を目指していくことが考えられます。

 

 脳・心臓疾患(過労死)の労災申請は、労災認定の実務や労働時間の考え方等に関する専門的知識が必要です。当事務所は、労働問題・労災事件に注力しており、多くの解決実績がございます。

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長時間労働による過労死の労災認定を獲得した事例

審査請求により、労災不支給の判断を覆して労災認定を獲得した事例

 

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