生産調整のために1か月休んでくれ、その間の給与はないと言われましたが、仕方ないのでしょうか。
使用者(会社)が生産調整を行うために、労働者を一定期間休業したり就労時間を短縮(部分休業)したりした場合には、原則として、休業期間中の「賃金全額」の支払いを請求することができると考えられます。
すなわち、「債権者(=使用者)の責めに帰すべき事由」によって労働者が労務の提供をすることができなかった場合には、民法536条2項により、労働者は賃金全額の支払いを受ける権利を失わないものとされています。この「債権者の責めに帰すべき事由」とは、故意・過失や信義則上これと同視すべき事由がある場合をいいます。
そして、使用者の生産調整のための休業は、使用者側の経営上の問題(判断)に過ぎず、「債権者の責めに帰すべき事由」による休業に当たると考えられます。
したがって、労働者としては、使用者に対して就労させるように求めた上で、休業期間中の(または就労時間が短縮された勤務時間中の)賃金全額の支払いを求めましょう。
なお、使用者が休業を求められる状況等によっては、使用者に故意・過失があるとはいえず、民法536条2項の適用はないとされるケースもあり得ます。また、民法536条2項の規定は、使用者と労働者の間の合意(雇用契約書や就業規則などの定め)により適用が排除される可能性もあります。
もっとも、そのような場合であっても、労働基準法26条により、使用者側の都合により休業した場合には、それが不可抗力といえない限り、使用者は労働者に対し、平均賃金の6割以上の「休業手当」を支払わなければなりません。
この労働基準法26条に基づく「休業手当」の支払い義務が生じる場面は、民法536条2項が適用される場面よりも広く解釈されており、天災事変などの「不可抗力」に当たらない限り、使用者側の領域において生じたものといいうる経営上の障害を含むとされています。使用者の故意・過失によるものである必要はありません。
例えば、機械の検査、原材料の欠乏、流通機構の不円滑による資材入手困難、監督官庁の勧告による操業停止、親会社の経営難のための資金・資材入手困難などで休業した場合であっても、使用者の都合により労働者を休業させた場合に当たるとされています。
したがって、今回のようなケースでは、仮に賃金全額の請求が認められない場合であっても、使用者側の都合による休業に当たるものとして、少なくとも平均賃金の6割の支払いが認められると考えられます。
(あくまでも労働基準法上最低限支払うべき金額という意味であり、使用者は平均賃金の6割の休業手当さえ支払えば、当然に賃金の全額を支払う必要がなくなるわけではありません。労使の合意によりそれ以上の賃金の支払いが認められることもあります。)
このように、使用者から休業を命じられた場合に、賃金請求が認められるのか、認められる場合の金額はいくらになるのかという点は、法的な解釈の問題が含まれますので、是非一度弁護士にご相談ください。