景気が悪いという理由で給料を3万円も減額されてしまいました。従うしかないのでしょうか。
一方的な賃金の減額は無効
労働契約は、労働者と会社の合意によって、労働者がその会社で仕事をする上での条件を定めた、いわば労働者と会社との間の約束です。
給与を一方的に減額することは、このような両者間の約束を破る行為であって、原則として許されません。 労働契約の内容を労働者の不利益に変更するためには、原則として、契約の当事者である労働者と会社が合意して決めなければならず(労働契約法8条)、会社が勝手に内容を変えることはできないのです。
したがって、会社による一方的な給与の減額は、違法・無効であり、労働者が応じる必要はありません。
給与減額への同意を求められた場合
上記のように、給与を減額するためには労働者の同意が必要です。これは、新型コロナウイルスの感染拡大等、会社の業績に大きな影響を与える事態が生じているような場合でも変わりません。
そこで、会社が「労働者の同意」を得るために、「不況のため業績が不振だ。給与の減額に応じてくれないと会社がつぶれてしまう。解雇になるよりはいいだろう。給与の減額に同意してもらえないか。」などと言って、給与の減額に同意する書面へのサイン等を求めることがあります。
このような同意書にサインをした場合、給与の減額の同意があったと主張され、給与の減額が有効とされる可能性が生じます。同意書にサインするよう求められても、その理由に納得が出来ないのであれば、断るべきです。これに応じなかったからといって、会社が労働者を解雇するなど、労働者を不利益に扱うことは、許されません。
もし、執拗に会社から同意を求められたり、同意に応じなかったことを理由に不利益な扱いを受けたりした(あるいはそのおそれがある)ような場合には、弁護士に対応を相談するなどして対応を検討した方がよいでしょう。
同意書にサインしてしまった場合
それでは、同意書に一度サインしてしまったら、もう同意の撤回をする余地はないのでしょうか。
給与の減額のように、労働者の不利益が大きい場面では、一般に、「労働者の同意」があったと認められるためには、「労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要とされています。
すなわち、労働条件を変更する必要性や、変更によって労働者がどのような不利益を受けるのかについて、会社が十分な説明を行わず、あるいは虚偽の説明を用いて、一方的に労働者に同意を迫ったとしても、そのようにして得た同意には効力は生じないと考えるべきです。
したがって、給料の減額に同意して、同意書にサインしてしまったとしても、その状況によっては、弁護士に相談するなどして、同意の有効性を争うということも十分に考えられます。
就業規則の変更による場合
就業規則の変更による場合には、給与の減額が有効とされることもあります。具体的には、下記の事情を考慮し、給料の減額を伴う就業規則の変更に合理性が認められる場合に限り、有効とされています。
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① 個々の労働者が受ける不利益の程度
② 会社が労働条件を変更しなければならない必要性
③ 就業規則の変更後の内容の妥当性
④ 就業規則の変更に際して労働者側との間で講じた手続
⑤ その他の就業規則の変更にかかる事情
逆に言えば、会社が上記の事情について検討もせずに、単に景気が悪いからといった理由で、就業規則を変更して給与を減額した場合、無効になる可能性があるといえます。
賞与の減額について
定期的に支払われる給与とは異なり、賞与(ボーナス)は、法的に使用者に支払いを義務付けられているものではありません。そのため、賞与を支給するか否か、どのような支払基準を設けるかは、会社に裁量があります。
例えば、就業規則に賞与の具体的な支払基準が明記されている場合には、会社には定めに準じた金額を支給する契約上の義務が生じます。この場合、賞与の減額は労働条件の変更にあたるため、労働者の同意がある場合を除き、違法、無効となります。
他方で、就業規則上、賞与の支払基準が明記されておらず、賞与の内容が弾力的なものであるケース、「会社業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、賞与を支給しないことや減額することがある」という定めがあるなど、減額があり得ることが明記されているケースでは、就業規則上の要件に反しない限り、賞与の減額は原則として有効です。
このように、賞与の場合には、給与とは異なり、賞与についてどのような定めがなされているかによって結論が大きく左右されます。まずはどのような定めになっているかを確認する必要があるでしょう。
お悩みの際は弁護士にご相談を
以上のように、給与の減額については、使用者側の十分な説明に基づく労働者の同意が原則として必要であり、必ずしも応じなければならないわけではありません。仮に形式的に同意書にサインしたとしても、その同意の有効性を争えるケースもあります。
もっとも、「自分一人で会社と交渉するのは、気が重い。」このように感じるかもしれません。また、同意の有効性や就業規則の変更の有効性について、専門的な判断が必要となることもあります。
そのような場合には、当事務所の弁護士が、サポートさせていただきます。
初回相談料は30分無料です。お悩みの際は、是非一度、弁護士にご相談下さい。